宮地エンジニアリンググループの強み

経営の範疇を超えた幾多の危機を乗り越えてきた底力と経験

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MEGは、その前身となる株式会社宮地鐵工所からの100年以上の歴史の中で、幾多の経営の範疇を超えた大きな危機を乗り越えてきました。また、技術的難易度の高い仕事は時に社会的影響の大きな事故に繋がるリスクもあります。その様な危機を乗り越えるための辛い決断を迫られる中で大きな支えとなったのは、我々と共に歩んできてくれた協力会社をはじめとする多くのステークホルダーの方々による多大なるご支援ご協力と自己資本でした。多くの協力会社を抱え、大きな工場や設備も有するMEGは、過去の経験から、会社とステークホルダーを守るためには危機に備えた一定の自己資本を保有しておくことの重要性を学びました。

1 幾多の経営の範疇を超えた危機とは

一つ目の危機は、1970年代の第一次オイルショックに端を発した本州四国連絡橋架設計画の無期限延期です。関門大橋で長大橋技術の最先端を走っていた当社は、本州四国連絡橋の建設工事に向けて広島県福山市に最新工場を建設すべく用地を取得し、岸壁整備も完了していよいよ工場建設に着手すると言うタイミングでしたが、計画の無期限延期により、それらが全て不良債権となり、当時1,500人の社員から500人もの人員削減を行うと言う苦渋の決断を迫られました。

二つ目の大きな危機は、時の政府の政策変更による2000年代の公共事業費の縮減です。コンクリートから人へ等のスローガンにより、10兆円近くあった公共事業予算が5兆円以下にまで下げられ、さらにそこへ談合との決別による受注環境の激変が加わり、工場の操業を確保するための不当なダンピング受注(*)等も頻発したため、当時76社もあった一般社団法人日本橋梁建設協会の加盟会社の内の45社が撤退又は倒産等により退会し、31社にまで激減するという厳しい状況となりました。当社グループも例外無く厳しい状況に追い込まれることとなり、発注量の激減等に対応するため、2007年には本社ビルを売却し、さらには60年の歴史を持つ松本工場を、苦渋の決断により2014年に完全操業停止させることとなりました。なお、2005年に社会問題となりました橋梁談合事件に際しましては、真摯に反省し、いち早く過去との決別を宣言するとともに、コンプライアンス管理体制の確立ならびにガバナンス重視の経営体制を再構築してまいりました。
(*)国の指導により入札制度等が見直され、現在では不当なダンピングにより受注をすることはできなくなり、適正な価格で入札が行われております。

2 社会的影響の大きな事故とは

技術的難易度の高い特殊工事を得意とするMEGは、安全には細心の注意を払って施工を行っておりますが、それでも事故とは全く無縁であるとは言えません。そして、技術的難易度の高い工事は、一度事故を起こせば社会的に大きな影響を与えることもあります。社会インフラを扱う会社として安全に対する戒めとしている大きな事故は、国道15号の多摩川渡河部に架橋される六郷橋の事故です。1984年12月14日に、解体して台船上に載せて運搬していた旧アーチ橋がバランスを崩して落下し、5名もの方が亡くなり、13名の重軽傷者を出してしまいました。MEGとして安全の大切さを痛感した事故であり、それ以降は安全対策の徹底に努め、大きな事故は発生させておりません。

橋梁業界において社会的影響が最も大きかった事故として記憶されているのは、1991年3月14日に発生した広島新交通システム橋桁落下事故です。交通量の多い県道上の難易度の高い工事であったにも関わらず、十分な安全対策が取られていなかったため、前日に仮設置していた橋桁が10m下の県道上に落下し、赤信号で停車していた乗用車等11台を直撃して14名もの方が亡くなられた大事故でした。この事故を起こした会社は、歴史と技術力のある会社ではありましたが、安全を疎かにした代償は大きく、この事故より後は衰退の一途を辿り、2012年には破産しました。安全の大切さを痛感させられる大事故です。

橋梁業界においては、1991年の橋桁落下事故を契機に第三者を巻き込む大きな事故は発生しておりませんでしたが、2016年4月22日には、奇跡的に一般の方々は巻き込まれなかったものの、施工計画の不備により道路上に橋桁を落下させ、10名もの死傷者が出る大事故が再び起こりました。安全にはわずかな油断も許されないと言うことを改めて強く認識させられる出来事でした。

宮地エンジニアリンググループの安全対策

3 危機に備えた一定の自己資本とは

MEGの資本政策

当社グループは、中長期視点に立った、持続性の高い企業体質の確立と企業価値の向上ならびに株主の皆様への還元を経営の重要な施策と考えると同時に、株主の皆様、ステークホルダーの皆様との共通のコンセプトである持続的成長のための投資など、バランスの良い資本政策を実施するという方針を基本としております。

当社のキャッシュ・フローの特性について

当社グループの主力事業である橋梁事業、特に官公庁や高速道路会社からの受注案件は、年度毎に一部前払金を受領するものの、年度毎の施工による出来高に応じて工事代を回収する契約となっていることから、当社グループのキャッシュ・フローには、年度の前半はキャッシュ・インが多く、年度の後半にはキャッシュ・アウト先行になるという傾向があります。このため、年度(4月~3月)のうち、期首から第3四半期末(4月~12月)にかけては手元キャッシュを活用して支払いなどを行うことが可能であっても、第4四半期の期中(1月~3月)においては外部借入を必要とする状況となる傾向があります。

加えて、特に高速道路の大規模更新工事の場合は、受注案件の設計業務が完了した後に工場製作し、現地架設工事を行う工程となることから、設計業務が完了するまでの間は固定費を回収しづらい状況が続きます。大規模更新工事が今後増加し業容が拡大した場合には、このような傾向はさらに拡大するものと予想しております。

また、後述のキャッシュ・インが一時的に途絶えるリスクを考慮すると、工場や架設現場における外注費支払い、さらには工場維持費用など管理部門も含めて発生する固定費も賄う必要があることから、一定の借入枠を確保しリスクヘッジしているものの、月商の2~4ヶ月分(100~200億円)程度のキャッシュを常時保有しておく必要があります。

自己資本を毀損するリスクへの対応について

①事故リスクへの備え

当社グループの工事案件は、道路橋、鉄道橋、特殊鋼構造物など、大規模かつ高難度な工事が多いことから、安全施工の施策を種々講じてはいるものの、架設中の桁の落下などの事故リスクがあります。万が一事故を発生させた場合には、再製作や再施工のコストのみならず、直接的な被災者や間接的に損害を与えた第三者への補償義務などが発生します。特に、幹線道路や鉄道に被害を与えた場合の当社損失ははかり知れないものがあります。加えて、事故に伴い指名停止措置を受けた場合には、将来の仕事量にも多大な影響を与える可能性があります。第三者賠償責任保険などによりそれらの事態に備えているものの、損失補填には限りがあります。
過去の事故経験や今後受注を目指す高難度工事を踏まえ、万が一の際においても事業継続を可能とする一定の自己資本(内部留保)を保持しておく必要があります。

②自然災害リスクへの備え

2019年に千葉県に上陸した台風15号および台風19号では、千葉県市原市の工場建物等が損壊し、生産調整しながら建物等の修繕に8ヶ月の期間を要する被害を受けました。また、同工場は東京湾の臨海部にあることから、千葉県北西部直下地震や首都圏直下型地震が発生した際には、地震被害の他に津波被害を受けるリスクがあり、工場生産に甚大な被害を及ぼすことが想定されます。また、当社の工事現場は全国多岐にわたっており、今後想定される南海トラフ地震等の影響により、工事現場が長期間にわたりストップしたことで生産活動が停滞したり、現地での復旧作業に多大な費用が発生するリスクもあります。現在計画している新事務所棟建設は、当社や協力会社の従業員の安全安心を確保するため、また、東京都中央区の本社が壊滅した場合のBCP(事業継続計画)として、さらに現在の製造事務所を新事務所棟に移転した跡地を利用して工場の操業を維持しながら他社との差別化を図る最新鋭生産ラインの導入を図る目的があります。当社グループは、大規模な災害が発生し生産活動が停滞した場合でも、それらが復旧するまでの間発生する固定費や臨時的費用を賄ったうえで事業継続を図っていくことが可能な自己資本(内部留保)を保持しておく必要があります。

当社グループに必要な自己資本について

中期経営計画(2022~2026年度)の最終年度目標値の売上高750億円、営業利益75億円、親会社株主に帰属する当期純利益40億円にむけて、当社グループが持続的に成長し続けるためには、前述のとおり、当社のキャッシュ・フローの状況、自己資本を毀損するリスクにも十分留意しつつ、株主還元を確実に実施したうえで、積極的に成長のための投資に資金を振り向けていく必要があります。

純資産合計額から非支配株主持分を控除した自己資本としては、工事進捗に対応する運転資金100~200億円(月商の2~4ヶ月分)に、工事に伴う事故や大規模自然災害が発生した場合の対応費用や、それらにより暫く収入が途絶えた場合でも生産復旧に投入できる経営資源として月商換算で4ヶ月分程度の対応費用を加えた、月商に換算して7ヶ月分(年間売上高の60%)程度、現状の業容における年間売上高650億円に対しては約400億円、中期経営計画最終年度目標の750億円に対しては約450億円が、当社グループにおける持続的成長を担保するために必要な自己資本であると考え、中期経営計画における自己資本比率を55%以上と定めました。

中期経営計画では5年間で180~200億円の投資を予定しており、営業利益率10%を目標とし、5年間のEBITDAを約400億円と見込んでおります。成長のための投資への資金の投入、将来の備えとしての内部留保の蓄積にバランス良く配分するとともに、総還元性向30%を目安としつつ、好業績時には機動的な株主還元を実施し、資本効率にも十分留意して自己資本の水準を適切にコントロールしてまいります。